1996年7月4日、 スウェーデン・カングスハムにて
親愛なる友へ
またバスに乗っている。階段で転ばないようにするのに一苦労だ。こういう長いツアーをしていると、ちょっと精神的に狂ってくるものだけど、それ程ひどくもない。一緒にツアーしてる仲間達がいい奴ばかりだから救われるし、週に一度は暖かい食事も食べられる。(週一回の理由も、単に僕が変な時間にお腹が空くからというだけ。午後ちょうど店が閉っている時間帯とか、移動しなきゃいけない時とか。仕事の後は緊張し過ぎていて食べられないし、やっと緊張がほぐれてお腹が空いてきた頃には夜も深けて、まだ働いている料理人なんかいないからだ。)
1996年度 "パープル・ブーツ" 大賞・最悪ホテル部門は、是非ともストックホルムのSASヴァイキング・ラディソン・ホテルに贈りたい。3泊してチェックアウトした僕達は、疲労の余り神経は麻痺し、べらぼうな電話料金のお陰で破産寸前という散々な状態だった。その高さといったら、これは単に大企業による無差別犯罪なのか、それとも安眠を望むミュージシャンだけに対する犯罪なのかと考えた程だ。そうそう、思い出した。僕のような種類の人間は一部の国でいかに蔑視されているかってのを。メキシコはモンテレーで泊まったホテルの部屋のドアに貼ってあった規約書に書いてあったんだが、「第三条 次の物を部屋に持ち込むことは堅くお断りします。1)拳銃 2)動物 3)ミュージシャン」だと。ふんっ!!
さてもう少し真面目な話をするとして、イギリス対ドイツのサッカー試合にあたり、我が国の大衆新聞が掲載した、余りにもひどいゴミのような記事に関して、これを機会に僕の知っているイギリス人を代表してお詫びを述べさせて欲しい。僕自身ドイツにはいい友人がたくさんいるし、彼らは僕がどんなに恥ずかしい思いをしているか判ってくれるだろう。どの社会にもフーリガンという人種は居るものだろうが、デイリー・メールに載ったような、無骨で訳のわからん、間違った感情を煽り立てるだけの記事は、僕やイギリス国民の大半の気持ちとは全く関係のないものだと理解していただきたい。ドイツの皆さん、ユーロ96での優勝おめでとう。当然の結果だと思うよ。
これからポルトガルに向かい、家族と一緒に休暇を過ごして体力と正気を取り戻す予定だ。その後はまた逆立ちして(これは地獄に関しての古いイギリスのジョークなんだが、あまりにも下品なので詳しく書くのは避けたい)9月はヨーロッパ、10月は日本、11月はアメリカ(さてこれはどうなることか?!)、そして真面目に働いた御褒美にまたお休みを取った後は、環大平洋、南米、冥王星に天王星だ。
最後になったが、"Dreamcatcher" は逃げ出さんとしている! "Gunga Din" も逃走中なので、最初に見つけた人には謝礼が出ます。近日中にまた謎が解けてくるにつれ、詳しい情報をお知らせしよう。最初に知らせるのはもちろん君たちみんなだということを忘れずに。じゃあ今日はこれで。
イアン・ギラン
Photo by Tord Isaksson © 1996